PLoS Pathog誌に論文を掲載いたしました。

『HTLV-1 bZIP factorは抑制性免疫補助受容体シグナルを阻害しT細胞の増殖を促進する』

紀ノ定明香1,2、安永純一朗1、志村和也1、Paola Miyazato1、大西知帆1、伊豫田智典3、稲葉カヨ3、松岡雅雄1,4

(1京都大学ウイルス・再生医科学研究所ウイルス制御分野、2京都大学生命科学研究科生体動態制御学分野、3京都大学生命科学研究科生体応答学分野、4熊本大学医学部血液内科)

PLoS Pathog. 13: e1006120, 2017

【概要】

 ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1 : HTLV-1)は、成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia : ATL)の原因ウイルスです。HTLV-1のレセプターはglucose transporterであり、生体内ではT細胞だけでなくB細胞や単球など、様々な細胞に感染できます。しかし、HTLV-1は生体内で主にCD4陽性T細胞に感染しており、その増殖を促進させ、発がんへと導いています。これまで、なぜHTLV-1がT細胞特異的に増殖を促進させるかは不明でした。

 本研究では、HTLV-1転写産物のうちHTLV-1 bZIP factor(HBZ)が複数の抑制性免疫補助受容体(TIGIT、PD-1、BTLA、LAIR-1)シグナルを2種類の機構で抑制することでTCRシグナルの感受性を高め、T細胞の増殖を促進させることを明らかにしました。一つ目は、BTLAとLAIR-1の発現をHBZが抑制することにより、T細胞の増殖を促進させる機構です。二つ目は、HBZがTIGITとPD-1の発現は亢進させるがその機能を阻害し、T細胞の増殖を促進させる機構です。

 これらの抑制性免疫補助受容体は細胞内に共通して、チロシンフォスファターゼであるSHP-2が結合するモチーフ(ITIM、ITSMモチーフ)を持ちます。通常、これらのモチーフに結合したSHP-2はリン酸化により活性化し、TCR下流シグナル分子を脱リン酸化することでT細胞の活性を抑制します。しかし、HBZはSHP-2の活性およびTCR下流シグナル分子の脱リン酸化を抑制することが明らかとなりました。また、通常SHP-2はGrb2やTHEMISと複合体を形成し抑制性免疫補助受容体と結合しますが、HBZはTHEMISと結合することでSHP-2と抑制性免疫補助受容体との結合を阻害することも明らかとなりました。

 さらに、これまでHBZは主に核に局在し、p65やSmad3、c-Junなどの転写因子やp300などの宿主因子と相互作用することが報告されてきました。本研究では、THEMISがHBZと結合し、その局在を核から細胞質に変化させることでHBZが細胞質において抑制性免疫補助受容体の機能を阻害することを明らかにしました。また、THEMISを発現抑制するとHBZが主に核に局在したことから、THEMISがT細胞においてHBZの局在を変化させる責任分子であることも明らかになりました。

 THEMISはT細胞特異的に発現する分子として知られており、本研究で明らかにしたHBZとTHEMISとの相互作用は、HBZがT細胞特異的に増殖を促進する機構の一つであると考えています。

Kinosada(J)

 本研究成果は、次世代がん医療創生研究事業 (P-CREATE)、科学研究費、公益財団法人 三菱財団、日本学術振興会Core-to-Core Program A, Advanced Research Networks、日本学術振興会特別研究員奨励費の研究成果です。